サイケデリック研究の真実!サイケデリック薬物療法は本当に効果があるのか? #薬物療法 #心理療法 #PAT #論文

論文/レポート

はじめに

今回は、2024年9月19日に科学学術雑誌「サイエンス誌」から発表された論文「岐路に立つサイケデリック研究(英文:Psychedelic research at a crossroads)」を基に、サイケデリック薬物療法の問題点について考察します。

サイケデリック研究の岐路

世界では8人に1人が何らかのメンタルヘルスの問題を抱えており、これに対処するためのより効果的な治療法が求められています。米国やヨーロッパでは、サイケデリック薬心理療法を組み合わせた治療法「サイケデリック薬物療法:Psychedelic-Assisted Therapy(以下「PAT」と略します)」が臨床試験で研究されています。サイケデリック薬は幻覚作用を引き起こし、意識の変容を促進する薬物です。PATは、他の治療法と比べて短期間で強い効果が期待されるものの、安全性や効果に関する疑問が残っており、議論を巻き起こしています。

最近、米国食品医薬品局(FDA)がPTSD(心的外傷後ストレス障害)治療としてのMDMA療法の承認を拒否したり、MDMA試験に関する論文が倫理的な問題やデータの信頼性に関する理由で撤回されるなど、問題が浮上しています。この分野は重要な岐路に立たされており、研究コミュニティは試験段階から実証済みの治療法へと進化させるための課題に取り組む必要があります。

サイケデリック薬物療法「PAT」とはどういうものか?

改めてサイケデリック薬物療法(PAT)について詳しく解説すると、サイケデリック薬物を使用して心理療法と組み合わせて行う治療法のことです。サイケデリック薬物は、意識や感覚、認知に強い影響を与え、幻覚や変性意識状態を引き起こす物質です。この治療法は、通常、専門的なセラピストの指導のもとで行われ、薬物がもたらす意識変容を通じて、心の問題にアプローチすることを目的としています。一般的に、サイケデリック療法では次のような薬物が使用されます。

  • MDMA(エクスタシー):心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療に期待されています。
  • シロシビン:特にうつ病や不安障害に効果があるとされる幻覚性物質で、マジックマッシュルームに含まれる成分です。
  • LSD:精神的な洞察や感情的な開放を促すとされる薬物で、過去には治療に用いられていました。
  • ケタミン:うつ病や慢性痛に対する効果が認められており、サイケデリック療法の一環としても使われることがあります。

サイケデリック療法は、他の治療法に比べて短期間で効果が得られることが期待されており、特にPTSDやうつ病、不安障害、依存症などのメンタルヘルス問題に効果があるとされています。しかし、その安全性や効果に関してはまだ議論があり、特に使用される薬物の強い効果や期待バイアスなどが課題とされています。また、治療が適切に管理されなければ、乱用や依存のリスクもあるため、治療の方法や条件について慎重な検討が必要です。

サイケデリック療法は現在も研究段階にあり、治療法としての承認を得るためには、さらに多くの臨床試験や科学的な検証が求められています。

PAT療法は本当に効果があるのか?

PAT療法の効果については、現在のところ有望な研究結果が報告されているものの、まだ確定的な結論には至っていません。

有望な効果
  • PTSDやうつ病の改善:MDMAやシロシビンなどのサイケデリック薬物は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や治療抵抗性うつ病に対して、従来の治療法よりも早い効果が見られることがあると報告されています。
  • 短期間での治療効果:数回のセッションで効果が現れることが多く、従来の治療法よりも治療期間が短いことが期待されています。
まだ解決されていない問題
  • 長期的な効果の不確実性:短期的には改善が見られるものの、長期的に効果が持続するかどうかについては十分なデータが不足しています。
  • バイアスの影響:治療を受ける参加者や研究者の期待バイアスが結果に影響を与える可能性があり、効果を正確に評価することが難しい点があります。
  • 安全性や倫理的問題:薬物が強い効果を持つため、適切な管理が求められます。特に倫理的な懸念や、セラピストとの関係性に対する不安が指摘されています。
結論

PAT療法には、従来の治療法に比べて大きな可能性があるものの、まだ研究段階であり、安全性や効果を十分に確認するためにさらなる研究が必要です。特に、長期的な効果や異なる集団への適用については、今後の臨床試験の結果が重要です。

米国では医療用MDMA解禁に「ノー」、FDA諮問委の判断

2024年6月4日、米国食品医薬品局(FDA)の諮問委員会は、MDMA(エクスタシーとしても知られる)の使用を心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療に認めるかどうかを協議しました。その結果、委員会は圧倒的に「ノー」の意見を示し、11人中わずか2人がMDMA療法の効果を認め、治療のリスクを上回るとしたのは1人だけでした。

この結果は、多くの人々にとって驚きでした。サイケデリック療法の支持者たちは、20年以上にわたり、MDMAを医療に導入しようと努力してきたからです。最終的な決定は8月11日までにFDAによって下されますが、諮問委員会の意見が覆ることは稀です。

主な問題点

委員会が承認を阻んだ理由の一つは、これまでに行われた臨床試験の設計にありました。参加者は、自分が治療を受けているかどうか分からないことになっていましたが、MDMAの強い効果により、ほとんどの参加者は自分がどちらの群に属しているかを正確に推測していました。これにより「盲検解除」が起こり、期待バイアスが生じた可能性があります。

さらに、MDMA療法には心理療法が組み合わされているため、どれだけの効果がMDMAによるもので、どれだけが心理療法によるものかを区別するのが難しい状況でした。セラピーの内容が標準化されておらず、個々のセラピストに任されていたことも問題として指摘されています。

今後の見通し

一部の委員は、MDMAの効果はあるものの、より適切な試験が必要であると考えています。FDAが最終的に承認を拒否したとしても、ライコス・セラピューティクスや他の会社が追加試験を実施し、再申請する可能性があります。次に審査される可能性のあるサイケデリック薬は「シロシビン」です。シロシビン療法ではセラピーの介入が少ないため、MDMAよりも承認されやすいかもしれません。

PAT研究の課題

PATの研究には、いくつかの課題があります。まず、薬物の強い効果により、参加者が治療群かプラセボ群かを推測しやすく、期待バイアスが生じやすい点が問題です。また、多様な人種や文化的背景を持つ参加者が不足しており、結果の一般化が難しい点も指摘されています。さらに、心理療法と薬物の効果を区別することが難しく、治療の長期的な効果についても不明な点が多いです。以下、5つの問題点を挙げます。

  1. コントロール条件の設定
    • サイケデリック薬の効果が強いため、参加者や研究者がどの薬を投与されたかを隠すのが難しく、その結果が治療の効果をどのように解釈すべきかが疑問視されています。この「ブラインド」デザインが難しい場合、低・中・高用量を使用する試験や微量投与、疑似的なプラセボの開発など、代替手段が必要です。
  2. 多様な参加者の欠如
    • 現在の試験は、多様な人々が十分に参加しておらず、治療がすべての人に効果的かどうかを判断するのが難しくなっています。今後の研究では、異なる文化的背景や社会経済的状況、性別、民族に配慮した参加者のリクルートが重要です。
  3. 長期的な効果の未解明
    • 短期間では改善が見られるものの、長期的な影響についてはほとんどわかっていません。治療後数ヶ月から数年にわたって患者を追跡し、効果の持続性を評価することが必要です。
  4. バイアスの影響
    • 期待感や心理療法の有無が結果に影響を与える可能性があり、研究者たちは治療効果をより正確に測定するために、期待の影響や心理療法の役割を明確にする方法を模索しています。
  5. サイケデリック薬のメカニズム解明
    • サイケデリック薬がどのように脳や意識、感情に影響を与えるのかはまだ解明されていません。これを明らかにすることは、研究結果の解釈を助け、規制当局による判断を支援するために重要です。

MDMA療法の承認拒否と今後の展望

MDMA療法が承認を得られなかったことで、今後のPAT研究は厳しい検討を受けるでしょう。現在、200以上の試験で7つのサイケデリック薬が研究されていますが、いずれかが画期的な治療法として認められるためには、信頼できるデータの提供が求められています。

出典:Psychedelic research at a crossroads

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