はじめに
宮崎駿監督はアニメーションの世界で多彩な創造力を持つアーティストですが、そのアイデアを映画作品に昇華させ、商業的に成功させるには、プロデューサーである鈴木敏夫氏の役割が重要でした。彼の適切なアイデア選別とプロジェクト管理が、スタジオジブリ作品の世界的成功を支えました。
今回ご紹介する、Psychological Reportsに掲載された新しい研究では、依存症になりやすい性格と創造的思考の複雑な関係が明らかにされています。この研究によれば、依存傾向のある人は多くの創造的なアイデアを生み出すことに優れている一方で、その中から最適なアイデアを選び出すことに困難を感じることが示されました。また、新奇性の追求(新しい経験を求める傾向)がこの関係を部分的に説明しており、抑うつ傾向がその影響をさらに調整していることもわかりました。
この研究を通じて、創造的な人物の特徴を分析し、過去の成功例を基に、どのようなサポートやプロデュースが成功に必要であるかを考察していきましょう。
研究概要と結果


本研究は、中国の大学生576名(79%が女性)を対象に行われました。研究の主題は、依存傾向のある性格と創造的な思考の関係性を調査することです。具体的には、依存傾向を持つ人々がどのようにして創造的なアイデアを生成し、さらにそれらをどのように選別するのかを明らかにすることを目的としています。また、新奇性の追求や抑うつ傾向が、この関係にどのように影響を与えるのかについても探求しています。
研究の結果は、依存傾向のある人々の創造性に対する特異な特徴を明らかにしました。
依存傾向のある人物の特異な特徴
依存傾向のある人物の特徴がどのように創造的なプロセスに影響を与えるのかを、性格と創造性、新奇性の追求、そして抑うつ傾向の3つの要点に分けて解説します。
- 性格と創造性
- 依存傾向を持つ人物は、一般的に衝動的でリスクを取りやすい性格特性を持っています。この性格は、彼らが通常の枠にとらわれず、自由に新しいアイデアを生み出すことができる理由の一つです。彼らは大胆にリスクを取るため、他者が試みないような斬新な発想を思いつく傾向が強いです。創造性においても、リスクを恐れず新しいことに挑戦するため、数多くのアイデアを生成する能力に優れています。しかし、その一方で、最適なアイデアを選び取ることに関しては苦労することが多く、数多くの選択肢の中から最も有効なアイデアを選び抜く力が弱いという課題も抱えています。
- 新奇性の追求の影響
- 依存傾向のある人々は、新奇性の追求を強く持っており、新しい経験や刺激を求める傾向があります。この新奇性の追求が、創造的なアイデアを生み出す動機となることが多く、既存の枠を超えた新しい発想を促します。新奇なものを探求することで、創造的なアイデアの数が増えるというポジティブな影響があるため、彼らの創造性は豊かになります。しかし、新奇性を追求しすぎると、アイデアを深く吟味したり、最適なアイデアを選択することが難しくなるというネガティブな影響もあります。新奇性の追求に集中しすぎると、選んだアイデアが実現可能であるか、または最も効果的であるかどうかを冷静に判断する力が低下することがあります。これにより、創造性が豊かでありながらも、最終的に選択されたアイデアが最適ではない可能性が高まります。
- 抑うつ傾向の影響
- 抑うつ傾向が強い場合、創造的なプロセスにおける新奇性の追求が抑制される傾向があります。抑うつ症状があると、精神的エネルギーが低下し、新しいことに挑戦したり、刺激を求める意欲が減少するため、アイデア生成が減少します。また、抑うつ状態では、依存傾向が創造性に与える影響も弱まります。つまり、抑うつ傾向が強いと、依存傾向の人でも創造的なアイデアを生み出す力が低下し、新しい発想や挑戦が抑えられることがあります。
依存傾向のある人は衝動性やリスクを取る傾向があり、その結果、自由な発想や多くの創造的アイデアを生み出す能力に優れています。しかし、最適なアイデアを選び取る能力には課題があり、選択に苦労することが多いです。新奇性の追求がアイデア生成を促進しますが、過度に追求するとアイデアの評価が難しくなるリスクもあります。さらに、抑うつ傾向が加わると、創造性自体が低下することもわかっています。
ジミ・ヘンドリックスやエイミー・ワインハウスなど創造的なアーティストほど心身的に脆く、時に短命である理由が分かりますね。
苦労する天才の創造性を舞台裏から支えるプロデューサーという存在
依存傾向のある人は、創造的なアイデアを多く生み出す一方で、それを適切に選び現実に形にするのが難しい傾向があります。衝動的でリスクを取る性格ゆえに感情の起伏も激しく、そのバランスを保つことが課題となることもあります。しかし、優れたプロデューサーとの出会いにより、こうした課題を乗り越えて成功を収めた人もいます。
過去の成功者たちの背後には、アイデアを現実にするための重要な橋渡し役として、必ずと言ってよいほど、マネージャーのような存在がありました。
創造的なプロセスにおいて、アイデアを生み出す才能とそれを形にする力を持つマネージャーの存在が、アーティストや作品の成功に欠かせない役割を果たしてきた例は、世界中に多く存在します。以下に、代表的な例を紹介します。
- スティーブ・ジョブズとジョニー・アイブ(Apple社): スティーブ・ジョブズは、Appleの製品開発において、多くのビジョンやアイデアを提供した人物として知られていますが、そのアイデアを具体的な製品として形にする際には、デザイナーのジョニー・アイブが重要な役割を果たしました。アイブは、ジョブズのアイデアを現実的かつ美しいデザインに昇華させ、iPhoneやMacなどの革新的な製品を生み出しました。ジョブズの創造的な発想とアイブのデザイン的な洗練が融合し、Apple製品を成功に導きました。
- ビートルズとジョージ・マーティン(プロデューサー): ビートルズのメンバー、特にジョン・レノンとポール・マッカートニーは、豊富な創造的アイデアを持ち、その音楽は世界的な影響を与えましたが、それらのアイデアを音楽的に最適化し、商業的成功を支えたのがジョージ・マーティンというプロデューサーでした。マーティンはビートルズの創造性を理解し、アレンジや技術的なアプローチを駆使して、彼らの音楽を洗練された作品に仕上げました。彼のプロデュース能力が、ビートルズを「ロックの革命児」に導いた大きな要因です。
- ウォルト・ディズニーとアイディアの昇華: ウォルト・ディズニーは、多くの革新的なアイデアを生み出し、ディズニー社を成功に導いた人物ですが、彼の成功の背景には多くの優秀なマネージャーやクリエイティブチームが存在していました。ディズニーは、自分のビジョンを実現するために、アーティストや技術者を効果的に管理し、数多くのアイデアを作品として昇華させました。彼のチームには優れたアニメーターやプロデューサーが集まり、彼らがディズニーの膨大なアイデアを取捨選択し、最適な形で作品化しました。
- Pixar(ピクサー)とジョン・ラセター: ピクサーのアニメーション映画は、斬新なアイデアと優れた物語性で知られていますが、その成功の裏にはジョン・ラセターの監督およびプロデューサーとしての役割が大きいです。ラセターは、ピクサーのクリエイティブな才能たちが生み出した多くのアイデアをまとめ上げ、映画という形で昇華させる力を持っています。彼のプロデュースの下で、ピクサーは多くのヒット作を生み出しました。
- 日本の現代アートシーンと奈良美智&村上隆: 日本の現代アーティスト奈良美智や村上隆は、独自のスタイルで世界的に成功していますが、彼らの作品が国際的な評価を得る際には、プロデューサー的な役割を持つ人物やギャラリストのサポートが重要でした。特に村上隆は、自身の「カイカイキキ」というアートスタジオを通じて若いアーティストのマネジメントも行っており、クリエイティブなアイデアを市場に最適な形で届ける役割も担っています。
これらの例に共通しているのは、アーティストやクリエイターの豊かな創造性を最大限に引き出し、その中から最も適切なアイデアを選んで成功させるために、マネージャーやプロデューサーが不可欠な役割を果たしているという点です。マネージャーは、アイデアを実際の作品や製品として形にするための戦略的な調整や意思決定を行い、成功へと導きます。
創造的なプロジェクトの成功に欠かせないプロデューサーの役割
優れた作品やアイデアを世に送り出したアーティストや偉人の背後には、常にその創造性を形にするための優秀なプロデューサーやマネージャーが存在していることが多いです。アーティストやクリエイターは斬新で独創的なアイデアを生み出す才能に恵まれていますが、そのアイデアを洗練し、適切に世に出すためには、戦略的な視点や実行力を持ったプロデューサーのサポートが不可欠です。
特に以下の理由で、プロデューサーが効果的に機能することで、創造的なプロセスがスムーズに進みます。
プロデューサーの重要な役割
- アイデアの選別と洗練:
- 多くのアイデアが生まれる中で、それらの創造的なアイデアを客観的な視点から評価し、どのアイデアが最もプロジェクトにふさわしいかを選び取ることが必要です。チームメンバーが感情的に関わりすぎたり、アイデアの選別に迷った場合でも、プロデューサーは冷静にその選別を助け、時にはアイデアをさらに洗練させることで、より魅力的で成功しやすい作品に仕上げます。
- リソースの管理と外部との交渉:
- 優れたアイデアを現実の作品に昇華させるには、資金、時間、人材などのリソースを効果的に管理する必要があります。プロデューサーは、これらのリソースを調整し、プロジェクトがスムーズに進むように管理します。時には、外部との調整役として、スポンサーやパブリッシャー、メディア、ファンとの橋渡し役も果たします。アーティストがクリエイティブな作業に集中できるよう、外部との交渉やプロモーションなどを担うのも重要な役割です。
- クリエイティブなビジョンと現実のバランス:
- アーティストが持つ大胆なビジョンを尊重しつつ、現実的な制約の中でそのビジョンを最大限に引き出すのがプロデューサーの役割です。アーティストの創造性を阻害することなく、同時にプロジェクトを実行可能な形にまとめるバランス感覚が求められます。プロジェクトの目標や必要な成果を元に、アイデアを評価するための明確な評価基準を設定することで、やりたい事と実現できる事のラインを引きチームがより一貫した方法でアイデアを評価し、最良の選択を行うための指針を提供します。
- 結果の評価と長期的な成功のための戦略:
- プロデューサーは、単に作品を世に出すだけでなく、アーティストのキャリア全体を考慮した戦略的な視点を持ちます。プロジェクトを進めながら結果を評価し、改善点を見つけるプロセスを管理しながらも、次のステップに向けて調整を行います。持続的な成功や評価を得るために、どのタイミングでどのような作品を発表するか、どの市場にアプローチするかといった長期的な計画も立てます。
- チームの調整と意思決定の促進:
- チームメンバーが意見を出し合う中で調整役として機能し、チームメンバーや外部のステークホルダーから得られたフィードバックを取りまとめ、整理する役割を担います。アイデアを実行に移すプロセスを管理し、小さなプロトタイプや試作品を作る段階で、アイデアの良し悪しを公平に評価し、プロジェクトの方向性を調整します。意見が対立したり、方向性が不明確になった場合、最終的な判断を下すのもプロデューサーの責任です。
このように、プロデューサーの役割を持つ人物は、創造的なプロジェクトの成功に不可欠であり、特にアイデアを現実的なものに変える際の橋渡しとして重要な役割を果たします。
まとめ


依存症になりやすい性格は、衝動性やリスクを冒す傾向があり、これらは創造性と密接に関連しています。こうした特性は、豊富なアイデアを生み出す力の源泉となる一方で、そのアイデアを選び取り、実現する段階で障壁にもなり得ます。依存傾向がアイデアの創出と選択にどのように影響を与えるか、そのメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、このような創造的なプロセスには適切なサポートが不可欠です。
プロデューサー的な役割を持つ人物は、創造的なアイデアを持つアーティストやクリエイターが成功するための橋渡し役となります。彼らはアイデアを洗練し、戦略的な判断を行い、プロジェクトを現実的に進めるための指針を提供します。
スティーブ・ジョブズや宮崎駿のような成功者も、彼らのビジョンを現実に変えるための強力なプロデューサーの存在がありました。アーティストやクリエイターが斬新な発想を形にするためには、プロデューサーやマネージャーといった戦略的な視点と実行力を持つサポートが不可欠なのです。周囲のサポートがあって初めて、創造力が最大限に引き出され、実行に移されます。つまり、個々の才能が輝き、アイデアが形となり、成功へとつながるためには、チームとしての協力が欠かせないのです。
出典:Addiction-Prone Personality and Creative Cognitive Styles: A Moderated Mediation Model of Novelty Seeking and Depression Tendency
出典:Addiction-prone individuals excel at generating creative ideas but struggle with selecting the best ones



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